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ノーベル文学賞、今夜発表…村上春樹氏・多和田葉子氏ら期待される世界の作家たち


ノーベル文学賞が6日午後8時に発表される。アルフレッド・ノーベルの遺言に基づき理想主義的傾向を持つ文学作品を顕彰してきた賞は、どの国の作家に光を当てるのか。世界で受賞が期待されている作家たちを紹介する。(敬称略)

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村上 春樹
【評価】1960年代の学生運動の時代を経験した。当初は社会から距離を置き、『ノルウェイの森』などの作品で、愛と喪失、都会の孤独を描き、「デタッチメント」(無関心)の作家と呼ばれた。その後、阪神大震災やオウム真理教の事件を体験し、ノンフィクション『アンダーグラウンド』などを執筆。社会への「コミットメント」(関与)を強めた。

【経歴】1949年、京都市生まれ。早稲田大卒業後、79年に『風の歌を聴け』でデビュー。長編『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)や恋愛小説『ノルウェイの森』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)などの人気作を次々と発表した。2009年から10年に『1Q84』を刊行した。サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』など翻訳も多くある。

【課題】1980年代後半以降、海外での翻訳が始まった。2006年にカフカ賞、09年にエルサレム賞など、世界の文学賞を次々と受賞した。現在は50言語以上に作品が翻訳され、グローバリズムとネット社会を象徴するような存在となった。一方で、ノーベル文学賞は人気作家への評価が厳しいとも言われ、この点がどのように影響するのか。

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多和田 葉子
【評価】大学卒業後からドイツで暮らし、40年になる。現地で大学院などに通う傍ら、日独2言語で作品を執筆するようになった。自分の母語の外に出てゆく「エクソフォニー」を唱え、国境や言語だけでなく、人間を縛るもの全ての壁を越えることを試みるような執筆スタイルを貫く。海外での評価が高く、コロナ以前は世界各地を旅していた。

【経歴】1960年、東京都生まれ。早稲田大を卒業後、22歳のときに当時の西ドイツに渡る。91年にデビュー後、93年に『犬婿入り』で芥川賞。『容疑者の夜行列車』で谷崎潤一郎賞、『雪の練習生』で野間文芸賞、『雲をつかむ話』で読売文学賞など、国内のあらゆる主要文学賞に輝く。2018年に『献灯使』で全米図書賞の翻訳文学部門を受けた。

【課題】『傘の死体とわたしの妻』など詩集のほか、戯曲も手掛ける。ピアニストの高瀬アキさんと長年続けるパフォーマンスなど、様々な言語表現に取り組み、言葉の持つ新たな可能性を切り開こうとする。このユニークさをアカデミーが正当に評価できるか。アジア人の女性で、ノーベル文学賞の受賞者はまだいないことからも、受賞への期待が高まる。

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閻 連科(エン・レンカ)(中国)
【評価】代表作の一つ『愉楽』は、レーニンの遺体を購入して記念館を作り、観光客増加を図ろうとする中国の村を描く奇想天外な物語だ。そのほか、エイズ禍や大 飢饉ききん 、経済発展が引き起こす矛盾などを描いた作品を発表し、社会派の作家として知られる。2012年の莫言に続く、中国在住のノーベル賞受賞者誕生が待ち望まれている。

【経歴】1958年、中国・河南省の貧しい農村に生まれる。幼い頃から、草刈りや牛の放牧などを経験した。高校を中退後、20歳のときに解放軍に入隊し、創作学習班に参加する。80年代末から小説を発表し、旺盛な創作活動を続ける。エイズを扱った長篇『丁庄の夢』がブッカー国際賞などの最終候補となる。2014年にカフカ賞を受賞した。

【評価】韓国で最も大切な重鎮作家の一人。17世紀の李氏朝鮮時代に旅芸人の子どもとして育てられ、義賊となった男などを描く歴史大河小説『張吉山』のほか、『懐かしの庭』『客人』『武器の影』などの作品がある。海外に翻訳された小説や、映像化されたものも多い。『パリデギ 脱北少女の物語』は、韓国国内でベストセラーとなった。

【経歴】1943年、現在の中国・長春生まれ。子どものとき北朝鮮から韓国に移住した。70年、短編小説『塔』で作家活動を始める。韓国の民主化運動に関わり、民主化後も北朝鮮を訪問し、国家保安法違反で手配されてベルリンとニューヨークで亡命生活を送り、投獄されるなど、韓国の現代史と伴走するように苦難を味わいながら、執筆を続ける。

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高 銀(コ・ウン)(韓国)
【評価】韓国を代表する詩人。2000年の韓国と北朝鮮の南北会談の際に、当時の金大中大統領に同行し、詩を朗読したこともある。日本の詩人たちとの交流も深い。しかし、2018年ごろに韓国で広がった「Me Too運動」で厳しい告発を受け、韓国初のノーベル文学賞の受賞からは、すでに遠のいたという見方もある。

【経歴】1933年、日本が朝鮮半島を統治していた時代の全羅北道生まれ。朝鮮戦争の際に、悲惨な現場を見て精神的混乱に陥る。その後、出家して僧侶となったが、 還俗げんぞく し、民主化運動に関わる。投獄や拷問なども経験した。詩人の吉増剛造さんとの共著に『「アジア」の渚で』。藤原書店から『高銀詩選集 いま,君に詩が来たのか』が刊行されている。

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リュドミラ・ウリツカヤ(ロシア)
【評価】新潮社の外国文学シリーズ「新潮クレスト・ブックス」にも、『通訳ダニエル・シュタイン』『ソーネチカ』などの作品が入り、日本でも愛読者が多いロシアの人気作家。反プーチン大統領的な立場を取っている。長編『緑の天幕』は、強権的な20世紀後半の旧ソ連で知性と自由を求めて生きた人々を描き出した名作だ。

【経歴】1943年生まれ。旧ソ連時代のモスクワ大生物学部で遺伝学を専攻する。科学アカデミー遺伝学研究所に勤めていたが、サミズダート(自主出版)の非合法出版文学を読み、70年に解雇されたことが転機になる。92年に『ソーネチカ』で脚光を浴び、『通訳ダニエル・シュタイン』や『女が嘘をつくとき』などの作品を発表している。

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ミハイル・シーシキン(ロシア)
【評価】海外でも人気が高く、プーチン政権下のウクライナ侵略に対して、批判的な立場を貫くロシアの作家。日本でも翻訳された『手紙』(新潮クレスト・ブックス)は、現代のロシアに住んでいるらしい女性と、1900年の中国でロシア兵として義和団事件の鎮圧に参加していると思われる男性との2人が書簡を交わし合う感動的な小説だ。

【経歴】1961年生まれ。旧ソ連崩壊直後の93年に『皆を一夜が待っている』でデビュー。『イズマイル陥落』『ヴィーナスの毛(ホウライシダ)』などの作品があり、ロシア国内の主要な文学賞を全て受賞している。海外にも、多くの作品が翻訳されている。『手紙』は2011年、ボリシャーヤ・クニーガ賞を受賞した。

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ミルチャ・カルタレスク(ルーマニア)
【経歴】1956年、ルーマニア・ブカレスト生まれ。東西冷戦下で独裁的な政治を行ったチャウシェスク政権時代に学生時代を過ごす。大学を卒業後、教員や編集者などの傍ら、創作や評論活動を展開した。ルーマニア・ポストモダン文学の旗手とも言われ、『ノスタルジア』『ぼくらが女性を愛する理由』などの作品が邦訳されている。

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イスマイル・カダレ(アルバニア)
【経歴】1936年、アルバニア南部のジロカスタル生まれ。モスクワに留学して文学を学んだが、ソ連とアルバニアの関係が悪化して帰国。1963年、戦死した部下の遺骨を収集するためアルバニアに来た異国の将軍を題材にした『死者の軍隊の将軍』を発表し、国際的な評価を受けた。その後、『石の年代記』『城』『砕かれた四月』など、バルカン半島の複雑な国際環境に置かれたアルバニアの歴史や社会情勢を踏まえた作品を次々と発表している。

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ミラン・クンデラ(フランス)
【評価】映画化された恋愛小説『存在の耐えられない軽さ』が、世界的なベストセラーとなった。かつては東西冷戦下の時代、旧ソ連がチェコスロバキアの改革運動を押しつぶした「プラハの春」の後、フランスへ亡命した経歴から、イデオロギー的に作品を読まれることもあった。現在は、愛のすれ違いを描く作品としての魅力が改めて注目されている。

【経歴】1929年、チェコスロバキア(当時)のブルノに生まれる。小説『冗談』で注目を浴びるが、68年の「プラハの春」の後、全ての著作が国内で発禁となる。75年にフランスに移住し、81年にフランスの市民権を獲得した。国内でも、『不滅』や『笑いと忘却の書』『別れのワルツ』など、多くの作品が翻訳されている。

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マリーズ・コンデ(フランス)
【経歴】1937年、カリブ海に浮かぶフランスの海外県グアドループ島に生まれる。16歳で島を離れ、パリで教育を受ける。子育ての傍ら教員生活を送り、パリ大学で比較文学の博士号を取得する。フランスの黒人女性文学を代表する作家の一人。小説に、『生命の樹』『わたしはティチューバ』など。2018年、ノーベル文学賞の代わりに1年限定で設けられたニュー・アカデミー文学賞を受賞した。

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ダーチャ・マライーニ(イタリア)
【経歴】1936年、イタリア・フィエーゾレ生まれ。作家や詩人、劇作家として活躍する。民族学者の父、フォスコ・マライーニがアイヌ文化を研究するため、38年に一緒に来日し、父親が祖国のファシスト政権を否定したため終戦までの約2年間を名古屋の強制収容所で過ごした経験を持つ。1945年に帰国後、62年に『バカンス』でデビュー。作品に『帰郷 シチーリアへ』『シチーリアの雅歌』『ある女の子のための犬のお話』など。

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ヨン・フォッセ(ノルウェー)
【経歴】1959年、ノルウェーのハウゲスン出身の劇作家。「間」をうまく使った戯曲は世界各国で評価され、ヨーロッパを代表する戯曲家として、「21世紀のベケット」と評されることもある。日本でも、『だれか、来る』『死のバリエーション』などの作品が上演されており、本格的な邦訳戯曲集などの刊行が待たれている。

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セース・ノーテボーム(オランダ)
【経歴】1933年、オランダ、ハーグに生まれる。55年に『フィリップとよその人々』で作家デビューした。ドイツのゲーテ賞をはじめ、ヨーロッパ各地の文学賞を受賞している。幅広い教養に基づく、重層的な作風で知られる。主な著作に、『これから話す物語』『儀式』など。日本文化にも造詣が深く、『木犀!/日本紀行』の邦訳作品もある。

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マーガレット・アトウッド(カナダ)
【評価】2013年のノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローと並ぶ、カナダを代表する女性作家。マンローが女性の日常に題材を取った短編の名手と言われるのに対し、アトウッドは、種の絶滅や遺伝子工学への警鐘を鳴らす『洪水の年』などをはじめ、SF的想像力を駆使したスケールの大きな作品が特徴だ。フェミニズム文学の旗手とも言われる。

【経歴】1939年、カナダ・オタワ生まれ。69年の『食べられる女』以降、小説家として高い評価を得た。出生率が低迷した全体主義国家で、妊娠可能な女性がエリート層の男性の家で子どもを産むために尽くすことを強いられる近未来社会を描く『侍女の物語』は、世界的なベストセラーとなった。『昏き目の暗殺者』『誓願』でブッカー賞を受賞している。

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ドン・デリーロ(アメリカ)
【評価】フィリップ・ロスやコーマック・マッカーシーらと並び、現代のアメリカ文学を代表する作家。消費社会やメディア社会などに埋没する現代人たちと向き合ってきた。スウェーデン・アカデミーは、2016年に歌手のボブ・ディラン、20年に詩人のルイーズ・グリュックに賞を贈ったが、米国文学の「本流」の作家たちとどう向き合うのか。

【経歴】1936年、ニューヨーク・ブロンクス生まれ。71年に『アメリカーナ』でデビューし、85年に『ホワイト・ノイズ』で全米図書賞を受賞した。ほかの作品に、『リブラ』や、『墜ちてゆく男』、短編集『天使エスメラルダ―9つの物語―』など。ネット社会と金融不安のテーマが色濃くにじむ『コズモポリス』は、映画化されている。

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トマス・ピンチョン(アメリカ)
【経歴】現代の米国文学を代表する覆面作家。1963年に『V.』でデビュー。第2作『競売ナンバー49の叫び』でポストモダン文学の書き手として評価が定まる。『重力の虹』は、戦争や性、人種、音楽や映画など、あらゆる要素を注ぎ込んだ法外なスケールの超大作。新潮社から「トマス・ピンチョン全小説」が刊行。ノーベル文学賞を受賞すれば、インパクトと話題性は間違いなしだ。

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グギ・ワ・ジオンゴ(ケニア)
【経歴】1938年、英国の植民地だった時代のケニアの農村に生まれた。少年時代に民族主義に基づく独立運動を経験した。大学時代から執筆を始め、64年に自伝的小説『泣くな、わが子よ』を発表した。当初は英語で書いていたが、自分たちの生まれ育った言葉と精神を大切にするため、アフリカの民族の言葉で執筆するようになった。著書に『精神の非植民地化』など。

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アドニス(シリア)
【経歴】1930年、シリアに生まれる。現代のアラブ世界を代表する詩人。父親の教えでコーランだけでなく、幼いころから詩に親しんだ。55年のシリア国民党弾圧にともない投獄される。釈放後レバノンへ移住。80年にフランスへ亡命した。フーリア・アブドゥルアヒドが聞き手を務めた『暴力とイスラーム 政治・女性・詩人』が邦訳されている。

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セサル・アイラ(アルゼンチン)
【経歴】1949年、アルゼンチンのコロネル・プリングレス生まれ。75年の小説『モレイラ』を手始めに、多くの先品を発表。ある「少女」が体験する出来事を、荒唐無稽と不条理が入り交じった展開で描く『わたしの物語』や、小説家でマッドサイエンティストの男がある文豪のクローンを作ろうとたくらむ表題作を収めた『文学会議』など、奔放なラテン・アメリカ文学の作風を受け継ぐような小説が人気を集める。

原文出處 讀賣新聞