「中国共産党の歴史を振り返ると、毛沢東も鄧小平も大きな存在だ。しかし、共産党を一番変えた男といえば、やはり江沢民(元国家主席)だ」。約10年前、北京で取材した共産党の古参幹部に言われた言葉が印象的だった。
江氏が2000年に発表した重要思想「三つの代表」により、共産党は「労働者階級の前衛部隊」から「全国民の利益の代表者」となった。この位置づけの変化は、中国における共産革命が正式に終わりを告げたことを意味し、同時に経済利益の追求を最優先する党幹部が急増して、党が汚職まみれになった原因ともいわれる。
江氏が「三つの代表」に初めて言及したのは同年2月下旬、広東省を視察した際の地元幹部への訓話の中だった。さりげなく口にした形を取っていたが、党内への衝撃を小さくするために、事前に側近らと発表の時期と方法などについて練りに練っていたことが、後日、中国メディアで明らかになっている。
「三つの代表」とは、中国共産党は①先進的な社会生産力②先進的文化③最も広範な人民の根本的利益の3つを代表すべきだという主張だ。このうち3つ目の「人民の根本的利益」が最も重要で、共産党が「労働者の代表」ではなくなったことを表した。
それまでの共産党は「資本家」を打倒すべき相手とし、その私有財産を没収して、すべての資源とサービスを人民が共有する共産主義を目指していた。毛沢東時代、「清貧」は幹部の美徳とされていた。
しかし、「三つの代表」が提唱されたころ、改革開放に伴って中国にはすでに多くの民間企業家がおり、株式投資をする富裕層も少なくなかった。党中央が共産主義の理想を堅持しつづければ、社会の現実との乖離(かいり)はますます大きくなる。富裕層は中国で安心して経済活動ができず、海外移住するケースも急増していた。江氏には「三つの代表」で、企業家の入党を認め、富裕層を懐柔する狙いもあったといわれる。
「三つの代表」は02年に党規約に盛り込まれた。しかし、入党する企業家はあまりなく、むしろ党幹部が特権を利用し、親族を企業家にする事例が増えた。「権力のチェック」が働かない一党独裁体制の下、党幹部に経済利益の追求を暗に認める「三つの代表」により、中国では貧富の差がますます広がり、社会の矛盾がさらに拡大することになった。
原文出處 產經新聞