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絶滅危惧種のニホンウナギがいた 意外とキレイだった道頓堀川


大阪・ミナミの道頓堀川で昨年秋、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているニホンウナギが見つかった。道頓堀川での学術的な生態調査による捕獲は初めてで、その中には江戸時代より美味と珍重されるアオウナギも含まれていたという。調査に立ち会った関係者は「まだわからないことは多いが(偶然捕獲されたのではなく)前から生息していたことは確か」と言い切る。かつて水質汚濁のひどさで知られた川でウナギはどのように生きていたのか。

11匹捕獲
「グリーンっぽい背に白い腹部、細い顔つきなどアオウナギの特徴があり、驚きました」。捕獲されたウナギを見た大阪動植物海洋専門学校(大阪市大正区)校長でウナギ文化研究家の亀井哲夫さん(75)はこう話す。

アオウナギとは、やわらかい皮と上品な味わいの身を持つ背中が青緑のウナギ。実は亀井さんがウナギに興味を持ったのは、岡山県の児島湾や高知県の四万十川河口のアオウナギを知ったことがきっかけという。

今回の生態調査は、少ないながらも府内の河川でウナギの生息が確認されていることから、「道頓堀川でウナギを捕獲できるのか?」というテレビ番組の企画から始まった。同専門学校と大阪府立環境農林水産総合研究所(寝屋川市)の協力を得て、昨年11月11日に調査を実施した。

江崎グリコの電光看板で知られる戎橋付近など3カ所に、魚罠である筒と網のもんどり14個を設置。翌日に引き上げると13個までは空だったが、最後の網もんどりを手繰り寄せると、全長約60センチのウナギ1匹が入っていた。

「まさかアオウナギとは思わなかった。感動した」と亀井さん。さらに仕掛けたはえ縄にも10匹が次々にあがり、計11匹が捕獲された。すべて、河口から約5キロにある湊町船着き場付近での捕獲だった。

国内有数の繁華街を流れる道頓堀川でウナギが発見されたニュースは、たちまち全国に広まった。これまで大阪市の魚類調査でも一度も確認されたことがなかった。

同研究所の山本義彦主任研究員(44)は「ウナギのDNAが道頓堀川で確認されたのでウナギがいてもおかしくないとは思っていたが、こんなに注目されるとは」と、その反響の大きさに驚いた。

3タイプ
ウナギの生態には謎が多い。長年ウナギの研究をしてきた亀井さんにも、捕獲できた理由がわからないという。

「ただ注目したいのはこれが『川ウナギ』ではなく『汽水ウナギ』だということ。大阪湾へと流れる道頓堀川と汽水ウナギの習性に何らかの関係があるのかもしれない」と指摘する。汽水ウナギとは、河口など塩分の薄い汽水域で生活しているウナギのことだ。

一般にニホンウナギは南太平洋で孵化(ふか)した後、黒潮に乗って運ばれ、日本の沿岸域に近付くと細長いシラスウナギに姿を変え、川に上って育つとされる。

その後、再び海に戻るまでの間、主に過ごす場所によって3つのタイプがあるという。汽水域で過ごす汽水ウナギのほか、川で過ごす「川ウナギ」、川を上らず海に住む「海ウナギ」だ。

江戸時代は江戸城の前海の汽水域で取れるウナギが美味とされ、「ウナギは江戸前に限る」ともてはやされたこともあった。一方、川や湖のウナギは「旅鰻(たびうなぎ)」と呼ばれ、低くみられたという。

明治時代は、東京湾や児島湾などの汽水域で多くのウナギが捕獲されていた。汽水域の泥はなめらかでウナギの皮が傷つくことはないため皮が薄くてやわらかく、川魚独特の臭いもないという。

だが、海岸の埋め立てや臨海工業地帯の建設で生息環境の汽水域が失われ、ウナギも激減した。

水質改善
道頓堀川は江戸時代、東横堀川と木津川を結ぶためにつくられた人工河川。高度経済成長期には東京湾などと同様に工場排水や下水が流れ込み、水質は悪化の一途をたどった。近年は汚いとのイメージを払拭しようと、大阪市が下水処理を充実させてヘドロやゴミを除去したり、水門を操作して大川の水を引き込んだりして水質が改善された。

今回、道頓堀川で取れた11匹のうち5匹について山本さんが耳石(じせき)を解析したところ、回遊履歴から、1匹が海水、4匹が汽水域のウナギだったと判明。道頓堀川をすみかとしていたことが分かった。

山本さんは「道頓堀川はここ数十年で水がきれいになったので、人の手を入れ工夫することでもっと生き物が住みやすい川になるはず。身近な川を通して自然環境に目を向けてもらうきっかけになれば」と語った。

亀井さんも「水がきれいになった、よかったで終わらせてはいけない。それをさらに、コンクリートの護岸だけではなく、一部を石で組んだような自然護岸にすれば、ウナギだけでなくエビやカニなど生き物がもっと住みやすくなる」と強調した。

2025年の大阪・関西万博に向け、官民で大阪湾をきれいにしようという取り組みが進む。道頓堀川のウナギは、海と川をつなぐ自然環境の大切さを教えてくれている。

原文出處 產經新聞