今回の県市長選挙の投票率は61.2%で,前回の2018年選挙より5.8ポイント低下した。これまで地方選挙では投票率が比較的安定していたので,今回はかなり大きな下落といえる。事前に「今回の投票率が下がる」という見方が出ていたが,他方で有権者と距離が近い各県市の議員選挙も同時に行なわれるので,低下幅は限定的だという見方もあった。蓋を空ければ大きな下落で,おそらく民主化後の台湾の地方選挙では最も低い投票率になったであろう。
この原因についてであるが,各県市の投票率の変化を細かく見ることで状況が見えてくる。下の表で,投票率が5ポイント以上下落した県市には,減少幅が大きいことを示す「大」を付けた。「大」は全部で7県市で,当選者は国民党も民進党も両方ある。共通する特徴は,選挙前から現職の楽勝が広く予想されていた県市だ。投票率の減少幅を4ポイント以上に拡大すれば,雲林県,宜蘭県も入ってきて,この共通項にあてはまる。
逆に,注目を集めた台北市は1.7ポイント上昇,桃園市は減少したが減少幅は1.2ポイントと小さい。
投票率が大きく減少した理由は,個別県市で勝敗が見えていてわざわざ投票に行く動機が下がったからと解釈できる。ただし,民進党と国民党のどちらの支持者が多く棄権したのかは単純ではなさそうだ。
結果から見て,新北市の場合は劣勢の民進党の支持者がかなり棄権したと見ることができる。高雄市の場合は劣勢の国民党の支持者がかなり棄権したと見ることができる(前回の韓流ブームの裏返し)。しかし,台南市のように民進党現職の再選が当然視されていながら,劣勢と見られていた国民党候補が善戦した事例もある。台南市の場合,優勢であった民進党の支持者の中から投票に行かない人がけっこう出たと推測できる。
全体の投票率の低下(-5.8)と民進党大敗の結果を見て,台湾全体で民進党支持者の票が崩れたと思いたくなるかもしれないが,実際には県市長選挙での民進党の得票率は前回より2.5ポイント増えている。
全体的に「民進党候補が有権者の投票意欲を高めることができなかった」ということは言えそうである。これから追跡調査が出てくることを期待したい。
表 各県市の投票率の変化
県 市 2018年 2022年 減少幅
基隆市 62.45% 60.16% -2.3
台北市 65.97% 67.70% +1.7
新北市 64.00% 56.60% -7.4 大
桃園市 60.63% 59.46% -1.2
新竹県 67.95% 58.98% -9.0 大
新竹市 65.44% 62.94% -2.5
苗栗県 70.74% 67.20% -3.5
台中市 67.46% 60.01% -7.5 大
彰化県 70.90% 64.90% -6.0 大
南投県 72.75% 69.08% -3.7
雲林県 71.57% 67.35% -4.2
嘉義県 70.75% 67.32% -3.4
嘉義市
台南市 64.01% 58.68% -5.3 大
高雄市 73.54% 58.61% -14.9 大
屏東県 71.09% 67.18% -3.9
宜蘭県 69.09% 64.28% -4.8
花蓮県 64.87% 57.56% -7.3 大
台東県 68.33% 64.79% -3.5
澎湖県 62.88% 58.51% -4.4
金門県 42.76% 39.32% -3.4
連江県 71.31% 72.99% +1.7
全台湾 66.96% 61.17% -5.8
原文出處 Yoshiyuki Ogasawara