中国の大手信託会社、中植金融集団とその傘下の中融国際信託の支払い中断問題は、なぜか中国の新聞やテレビが一切報じない。それに日本のメディアで追跡し続けてきたのは本欄の筆者だけだが、なぜだろうか。
中国に多くの駐在記者を張り付けている経済紙も取り上げるのはもっぱら恒大集団や碧桂園という中国大手不動産の経営危機のみである。それは不動産バブル崩壊の皮相をなぞらえているのに過ぎない。バブル崩壊というのは、金融に波及したときに初めて経済危機に発展する。不動産開発業者の負債が膨らんだだけで、中国経済が根底から揺らぐはずはない。習近平政権はそんなことはとっくに計算済みなのだろう。金融監督当局は上記2社に対し債務の支払いを数年間延期させるよう指導し、債券市場を落ち着かせることに成功しつつある。そして2社は、まるで何も起きていないかのように、従来通りマンションを建設し、販売している。
だが、金融部門だとそんな「騙し」は通用しない。金融機関は銀行、ノンバンクを問わず、債務超過に陥り、債権者に元利返済や配当を支払えなくなれば、信用を失う。そんな金融機関からは資金が流出する一方で、調達は不可能なので経営破綻する。不動産バブル崩壊が背景にあるのだから、一社が焦げ付きを引き起こすと、ただちに全金融界に波及しかねない。これが金融危機である。
中植グループらノンバンク系金融機関の資産総額は日本円で約2700兆円、同国の国内総生産(GDP)を超すが、多くが巨額の損失を抱えている。だから、中植・中融問題は金融危機を誘発しかねない時限爆弾なのである。
習近平政権が選ぶ対処方法は報道管制を含む徹底的な情報隠しである。北京、上海など主要都市の中植・中融のオフィスビルには、連日のように投資家の主婦や零細企業経営者などが押しかけるが、各地の公安警察部隊がただちに出動し、退去しない投資家を排除する。公安はネットで連絡を取り合う全国で15万人以上に上る投資家一人ひとりの個人情報を掌握。24時間態勢で動静を監視し、深夜、早朝を問わず投資家宅に押し入るという。
習政権はこの十年超の期間、何度も不動産市況が急落しても、金融危機の発生を阻止した。秘訣は徹底的な情報の操作と粉飾、隠蔽にある。焦げ付き債権の多くは「不良債権」には分類しない。金融規制当局などのデータによれば、商業銀行の不良債権比率は奇妙なことに不動産バブル崩壊進行とともに下がっている。グラフがそれだ。全商業銀行の不良債権比率は2023年6月1.6%で、バブル崩壊前の20年9月の1.9%を下回る。
今回はその手が通用しそうにない。習政権は住宅ローンの頭金比率の引き下げや、2件目、3件目のマンション購入への規制緩和などに踏み切ると国内外のメディアに書かせるが、市民は冷めている。住宅の供給過剰とデフレ圧力のもと、不動産相場が再浮揚する気配はないのだ。
原文出處 產經新聞