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時評

小笠原欣幸 Yoshiyuki Ogasawara:頼清徳副総統 民進党の公認候補に


頼清徳主席が民進党の総統選公認候補になることは既定路線であったが,本日4/12 民進党中央執行委員会で正式に決まった。それを受けて頼清徳主席が談話を発表。ポイントは次のとおり:

〇2024年選挙の目標は,総統選挙での当選,国会の単独過半数だ。
〇2024年の選挙は「戦争か平和か」ではなく「民主か専制か」の選択。
〇台湾には土地があり人民がいて,事実上すでに主権独立国家であり,改めて独立を宣言する必要はない。
〇これまでの世論調査では、圧倒的多数の民衆が統一に反対し,「1つの中国原則」や「92年コンセンサス,1国2制度」を受け入れない。「事実」と「主流民意」に依拠すれば,台湾社会に統一独立問題はない。
〇民主こそが台湾人民の最大のコンセンサス。中華民国台湾を引き続き栄えさせ,自由民主の現状を守ることこそが正しい道だ。
〇台湾は理念が近い民主主義の友好国と協力し,中国に対し有効な抑止を作り出す努力をすべき。
〇「戦争に備えることで戦争を避けることができるし,戦う能力を持つことで戦いを止めることができる」「実力があってこそ平和をもたらすことができる」。
〇「対等」「尊厳」の原則で両岸の対話と交流を進め,相互理解,和解を促進し,「平和共栄」の目標を達成したい。
〇蔡英文総統のリーダーシップの下で,世界は台湾に注目し,台湾を肯定した。民主の台湾をさらに発展させ世界が台湾を必要とし,世界が台湾を抱擁するようにしたい。

【小笠原コメント】
頼清徳の公認候補決定の第一声は,改めて蔡英文総統の現実路線の継承を強くアピールするものとなった。頼清徳は以前から「改めて独立を宣言する必要はない」と主張しているので本日の談話も同じであるが,細かい点に注目すると,台湾は「事実上すでに主権独立国家」であるからと「事実上」をつけている。

これは私が授業で毎年説明してきたことで,「事実上」(de facto)を入れることでクッションになる。学術論文でも「台湾は事実上の国家」とするとクレームをつけられない。逆に言えば独立派は「事実上の」を入れたくない。この問題で頼清徳がかなり神経を使っていることがわかる。

次に,「台湾社会に統一独立問題はない」というのも踏み込んだ発言だ。独立派の人物はこうは言いたくない。台湾社会の多数派の「現状維持」支持者に直接訴えて統一反対の世論を強めようという賢い選挙戦略だ。

そして蔡英文の「中華民国台湾」のコンセプトをそのまま使っている。「理念が近い民主主義の友好国と協力」というのも蔡政権の外交路線だ。「蔡総統のリーダーシップで」台湾の国際的プレゼンスが高まったとして,蔡総統個人にもかなりの配慮を見せた。

これで頼清徳の「台湾のあり方」の大きな枠組みは明らかになった。これから国内政策で細かい論点がたくさん出てくる。腐敗・マンネリを防ぎながら民進党政権を継続する意義・利点をどれだけ適切に説明できるか,頼清徳の課題だ。

昨年の地方選の大敗後,与党民進党の支持率が下落したが,1月に頼清徳副総統が党主席を兼任してから民進党の支持が持ち直した。3月の世論調査では軒並み頼氏の支持率が国民党潜在候補にリードを保っている。国民党有利という見方は台湾の選挙通の間ではすでに消えている。一時期広がった「疑米論」も頭打ちになるのではないか。

蔡氏と馬氏の外遊の影響についてはまだ信頼性のある世論調査は出ていないが,3月の勢力関係を変えることにはならないと思われる。まだ候補者を決めることができない国民党をよそ眼に,総統選挙のレースで頼清徳がスタートダッシュという状況だ。

明日から台湾でしっかり現地観察してきます💁‍♂️

原文出處 Yoshiyuki Ogasawara